🌳 STEP 41: 意思決定ツリー
複雑な意思決定を構造化し、最適な選択を見つけよう
📋 このステップで学ぶこと
- 意思決定ツリーの基本概念と構造
- 3つのノードタイプ(決定・確率・結果)
- 期待金額価値(EMV)の計算方法
- ロールバック法による最適解の導出
- Pythonでの意思決定ツリー実装
🌳 1. 意思決定ツリーとは
なぜ意思決定ツリーが必要なのか
ビジネスでは、「新製品を発売するか」「工場を拡張するか」「マーケティングに投資するか」など、様々な意思決定を迫られます。しかも、それぞれの選択には不確実性(うまくいくかどうか分からない)が伴います。
例:新製品の発売判断
選択肢:
A) 大規模に発売(投資額:1,000万円)
B) 小規模にテスト発売(投資額:300万円)
C) 発売しない(投資額:0円)
不確実性:
・市場の反応は?(成功?失敗?)
・競合の動きは?
・経済状況は?
問題:どう判断すればいい?
→ 意思決定ツリーで構造化して分析!
定義:
意思決定の選択肢と、その結果(不確実性を含む)をツリー構造で表現し、最適な選択を見つけるための分析ツール
意思決定ツリーでできること:
① 複雑な意思決定を視覚化
② 各選択肢の期待値を計算
③ 最適な選択を特定
④ リスクを定量的に評価
活用シーン:
・新製品の発売判断
・設備投資の意思決定
・マーケティング戦略の選択
・M&Aの判断
・プロジェクトの優先順位付け
意思決定ツリーの3つのノード
① 決定ノード(Decision Node)□
・自分で選べる選択肢の分岐点
・四角形(□)で表現
・例:「発売する」か「発売しない」か
② 確率ノード(Chance Node)○
・自分ではコントロールできない不確実性の分岐点
・丸(○)で表現
・各分岐に確率を付与
・例:「成功(60%)」か「失敗(40%)」か
③ 結果ノード(Terminal Node)△
・ツリーの終端(葉の部分)
・三角形(△)または値で表現
・最終的な結果(利益、損失など)を記載
・例:「利益500万円」「損失200万円」
意思決定ツリーの例
左から右に読む:
1. まず「発売する」か「発売しない」かを決定(□)
2. 「発売する」を選んだ場合、市場の反応という不確実性(○)がある
3. 成功(60%の確率)なら利益500万円、失敗(40%の確率)なら損失200万円
4. 「発売しない」を選んだ場合、利益は0円
💰 2. 期待金額価値(EMV)の計算
EMVとは
EMV(Expected Monetary Value:期待金額価値)は、不確実性がある状況での平均的な結果を表す指標です。各結果の金額に確率を掛けて合計します。
EMV = Σ(各結果の金額 × その確率)
例:新製品発売のEMV
成功時の利益:+500万円、確率:60%
失敗時の損失:-200万円、確率:40%
EMV = (+500万円 × 0.6) + (-200万円 × 0.4)
= 300万円 + (-80万円)
= 220万円
→ 平均的に220万円の利益が期待できる!
ロールバック法
ロールバック法は、意思決定ツリーの右端(結果)から左端(最初の決定)に向かって計算を進める方法です。
Step 1:結果ノードの値を確認
各終端の金額を確認する
Step 2:確率ノードのEMVを計算
各分岐の(金額 × 確率)を合計する
Step 3:決定ノードで最適な選択を決める
EMVが最大(または損失が最小)の選択肢を選ぶ
Step 4:左端まで繰り返す
最初の決定ノードまで計算を続ける
具体例で計算してみよう
EMVの意味:
「同じ状況で何度も意思決定を繰り返したとき、平均的に得られる金額」
⚠️ 注意点:
・1回限りの意思決定では、実際の結果はEMVと異なる可能性がある
・リスク回避的な人は、EMVが高くても変動が大きい選択を避けることがある
・確率の推定が重要(確率が変わるとEMVも変わる)
🐍 3. Pythonでの実装
基本的な意思決定ツリーの実装
Step 1:単純な意思決定ツリーの計算
Step 2:複雑な意思決定ツリー(3つの選択肢)
Step 3:意思決定ツリーのクラス実装
感度分析との組み合わせ
意思決定ツリーでは、確率の値が変わるとEMVも変わります。「成功確率がどこまで下がったら、発売しない方が良くなるか」を分析してみましょう。
損益分岐点:成功確率 28.6%
意味:
・成功確率が28.6%以上なら「発売する」が有利
・成功確率が28.6%未満なら「発売しない」が有利
実務への示唆:
・市場調査で「成功確率が30%以上」と判断できれば、発売すべき
・確率の推定に自信がなくても、28.6%というラインを意識できる
・この分析を経営層に見せることで、意思決定の根拠を説明できる
💼 4. 実務での活用例
例:マーケティング戦略の意思決定
リスク考慮型の意思決定
EMVが最大の選択肢が常に最適とは限りません。
例:
・戦略A: EMV 460万円だが、失敗時は-300万円の損失
・戦略C: EMV 215万円だが、失敗時は-150万円の損失
リスク回避的な経営者なら、EMVが低くても損失が小さい戦略Cを選ぶかもしれません。
→ 最悪ケースの損失額も考慮した意思決定が重要!
① EMV最大化(期待値基準)
・平均的に最も利益が大きい選択
・繰り返し意思決定する場合に有効
・リスク中立的な意思決定者向け
② マキシミン基準(最悪ケース重視)
・最悪の場合でも被害を最小化
・リスク回避的な意思決定者向け
・失敗が致命的な場合に有効
③ マキシマックス基準(最良ケース重視)
・最大のチャンスを追求
・リスク愛好的な意思決定者向け
・ベンチャー企業などで使われる
④ ROI基準(投資効率重視)
・投資額あたりのリターンを最大化
・資金が限られている場合に有効
・複数の投資案件を比較する場合に便利
📝 STEP 41 のまとめ
1. 意思決定ツリーの基本
- 複雑な意思決定を構造化して視覚化
- 3つのノード:決定(□)、確率(○)、結果(△)
- 選択肢と不確実性を明確に分離
2. EMV(期待金額価値)
- EMV = Σ(結果の金額 × 確率)
- ロールバック法で右から左に計算
- EMVが最大の選択肢が最適(基本)
3. 感度分析との組み合わせ
- 確率が変わるとEMVも変わる
- 損益分岐点となる確率を特定
- 意思決定の頑健性を確認
4. リスク考慮型の意思決定
- EMVだけでなく、最悪ケースも考慮
- 意思決定基準の使い分け
- リスク許容度に応じた選択
効果的に使うためのコツ:
① 選択肢を漏れなく洗い出す
「やらない」という選択肢も必ず含める
② 確率は根拠を持って設定
過去データ、市場調査、専門家の意見を活用
③ 感度分析を必ず行う
確率の推定に自信がない場合は特に重要
④ リスク許容度を明確にする
経営層と事前に合意しておく
⑤ 結果を共有・説明できる形にする
ツリー図は視覚的で説明しやすい
次のSTEP 42では、「モンテカルロシミュレーション」を学びます。確率分布を使った、より精密なリスク分析を習得しましょう!
STEP 42では、「モンテカルロシミュレーション」を学びます。意思決定ツリーでは確率を「点」で推定しましたが、モンテカルロシミュレーションでは確率を「分布」として扱い、何千回ものシミュレーションで結果の分布を分析します!
📝 練習問題
以下の意思決定ツリーのEMVを計算してください。
選択肢A:新規事業に投資
・成功(40%):利益 +800万円
・失敗(60%):損失 -300万円
選択肢B:投資しない
・利益 0円
どちらを選ぶべきですか?
選択肢AのEMV計算:
= 320万円 + (-180万円)
= 140万円
選択肢BのEMV:
比較と結論:
→ 「選択肢A:新規事業に投資」を選ぶべき
ただし、60%の確率で300万円の損失が発生する点に注意。
リスク回避的な場合は、投資しない選択もありうる。
問題1の意思決定において、「投資する」方が有利になるための成功確率の最低ラインは何%ですか?(損益分岐点の確率を求めてください)
損益分岐点の計算:
800万円 × p + (-300万円) × (1-p) = 0
800p – 300 + 300p = 0
1100p = 300
p = 300 ÷ 1100
p = 0.273(約27.3%)
結論:
・成功確率が27.3%以上なら「投資する」が有利
・成功確率が27.3%未満なら「投資しない」が有利
現在の想定(40%)は損益分岐点を上回っているため、
投資する判断は妥当。
以下の2段階の意思決定ツリーのEMVを計算してください。
最初の決定:市場調査を行うか
A) 市場調査を行う(費用100万円)
→ 良い結果(70%)の場合:発売決定
・成功(80%):利益+500万円
・失敗(20%):損失-200万円
→ 悪い結果(30%)の場合:発売中止(0円)
B) 市場調査なしで発売
・成功(50%):利益+500万円
・失敗(50%):損失-200万円
選択肢A:市場調査を行う
EMV(発売) = 500万円×0.8 + (-200万円)×0.2
= 400万円 – 40万円 = 360万円
Step 2: 市場調査の結果別
良い結果(70%)→ 発売 → EMV 360万円
悪い結果(30%)→ 中止 → EMV 0円
Step 3: 市場調査全体のEMV
EMV = 360万円×0.7 + 0円×0.3 – 100万円(調査費用)
= 252万円 – 100万円
= 152万円
選択肢B:市場調査なしで発売
= 250万円 – 100万円
= 150万円
比較と結論:
EMV(B) = 150万円
→ 「市場調査を行う」がわずかに有利(差2万円)
市場調査の価値(情報の価値)= 152万円 – 150万円 = 2万円
調査費用100万円に対して、リスク軽減効果がある。
あなたは製品マネージャーです。以下の3つの製品戦略から最適なものを選んでください。
戦略1:フルスペック版を開発(開発費800万円)
・大ヒット(20%):売上3,000万円
・普通(50%):売上1,200万円
・不振(30%):売上400万円
戦略2:シンプル版を開発(開発費300万円)
・大ヒット(10%):売上1,500万円
・普通(60%):売上700万円
・不振(30%):売上200万円
戦略3:開発しない
・結果:0円
各戦略のEMV、最悪ケース、最良ケースを計算し、推奨を述べてください。
戦略1:フルスペック版
・大ヒット:3,000-800 = 2,200万円
・普通:1,200-800 = 400万円
・不振:400-800 = -400万円
EMV = 2,200×0.2 + 400×0.5 + (-400)×0.3
= 440 + 200 – 120 = 520万円
最悪ケース:-400万円
最良ケース:+2,200万円
戦略2:シンプル版
・大ヒット:1,500-300 = 1,200万円
・普通:700-300 = 400万円
・不振:200-300 = -100万円
EMV = 1,200×0.1 + 400×0.6 + (-100)×0.3
= 120 + 240 – 30 = 330万円
最悪ケース:-100万円
最良ケース:+1,200万円
戦略3:開発しない
最悪ケース = 最良ケース = 0円
比較表と推奨:
| 戦略 | EMV | 最悪 | 最良 |
|---|---|---|---|
| フルスペック | 520万円 | -400万円 | +2,200万円 |
| シンプル | 330万円 | -100万円 | +1,200万円 |
| 開発しない | 0円 | 0円 | 0円 |
推奨(意思決定基準別):
① EMV最大化 → フルスペック版(520万円)
② リスク回避 → シンプル版(最悪でも-100万円)
③ ハイリターン追求 → フルスペック版(最良2,200万円)
総合推奨:
会社のリスク許容度による。400万円の損失に耐えられるなら
フルスペック版、そうでなければシンプル版を推奨。
❓ よくある質問
① 過去データから
・過去の類似プロジェクトの成功率
・業界の平均的な成功率
・自社の実績データ
② 専門家の意見
・社内の経験者にヒアリング
・外部コンサルタントの見解
・デルファイ法(複数専門家の意見を集約)
③ 市場調査
・顧客アンケート
・競合分析
・テストマーケティング
④ 範囲で推定
・最低・最高の確率を設定
・感度分析で影響を確認
・確率に自信がない場合は幅を持たせる
ポイント:完璧な確率推定は不可能。感度分析で確率が変わった場合の影響を確認することが重要!
① リスク(変動性)を比較
・最悪ケースの損失額を比較
・結果の振れ幅(標準偏差)を比較
・リスク許容度に応じて選択
② 戦略的適合性
・会社の方向性に合っているか
・他の事業とのシナジー
・長期的な成長につながるか
③ 実行可能性
・必要なリソース(人・資金・時間)
・組織の能力とのマッチング
・実行のタイミング
④ オプション価値
・将来の選択肢が広がるか
・撤退・拡大の柔軟性
・学習効果があるか
ポイント:EMVは意思決定の重要な指標だが、唯一の基準ではない。総合的に判断する。
① ツリー図で全体像を見せる
・選択肢と不確実性を1枚の図で表現
・複雑な意思決定を構造化して理解しやすく
② EMVで比較する
・「選択肢Aは平均○○万円、Bは△△万円」
・差額を明示「AはBより○○万円有利」
③ リスクも説明する
・「最悪の場合は○○万円の損失」
・「ただし、その確率は○%」
④ 感度分析の結果を添える
・「成功確率が○%以上なら有利」
・「確率が多少変わっても結論は変わらない」
⑤ 推奨と根拠を明確に
・「以上の分析から、選択肢Aを推奨します」
・「理由は、EMVが最大で、最悪ケースも許容範囲だからです」
ポイント:数字だけでなく、「なぜその選択が良いのか」のストーリーを説明する。
意思決定ツリー(このステップで学んだもの)
・目的:意思決定の最適化
・使い方:将来の選択肢を評価
・確率:人間が設定
・出力:最適な選択肢とEMV
・分野:経営学、OR(オペレーションズリサーチ)
決定木(機械学習)
・目的:分類・予測
・使い方:データからパターンを学習
・確率:データから自動計算
・出力:予測結果(カテゴリや数値)
・分野:データサイエンス、AI
共通点:どちらもツリー構造で分岐を表現する
違い:意思決定 vs 予測という目的の違い
ポイント:文脈によって使い分ける。ビジネスの意思決定には「意思決定ツリー」、データ分析には「決定木」を使う。
学習メモ
ビジネスデータ分析・意思決定 - Step 41